福島原発行動隊員の健康管理計画

SVCモニタリングチームの健康管理は以下のように行われます。
担当:田中((内科医師・第1種放射線取扱主任者)

福島原発行動隊健康管理計画

1.健康診断

 (1)健康診断の時期
 (2)健康診断の項目
 (3)健康診断の方法
 (4)隊員の健康管理
 (5)健康診断個人票の保管

2.疾病対策

 (1)既存疾患の管理
 (2)放射線障害対策
   a.急性放射線障害対策
      @放射線被曝
      A放射能汚染
      B急性放射線障害について
      C健康障害発生時の対応
      D自己末梢血幹細胞採取保存
       ・虎の門病院谷口医師の計画
       ・日本学術会議の見解
       ・福島原発行動隊健康管理部の意見
       ・自己末梢血幹細胞採取保存の説明文書
    b.晩発性放射線障害対策
      @晩発性放射線障害について
      A確率的影響


1.健康診断

(1)健康診断の時期 
     
行動隊登録
  ↓

雇用前健康診断
  ↓

 雇用
  ↓

放射線作業従事
  ↓

@6ヵ月を超えない期間ごと(労働安全衛生規則)に健康診断実施
  ↓

A次の一つに該当するときに健康診断実施

イ 放射性同位元素を誤つて吸入摂取し、又は経口摂取したとき
ロ 放射性同位元素により表面密度限度を超えて皮膚が汚染され、その汚染を容易に除
  去することができないとき
ハ 放射性同位元素により皮膚の創傷面が汚染され、又は汚染されたおそれのあるとき
ニ 実効線量限度又は等価線量限度を超えて放射線に被ばくし、又は被ばくしたおそれ
  のあるとき
  ↓

 退職
  ↓

1年毎に健康診断および各種癌検診


(2)健康診断の項目

一般健康診断と特殊健康診断(電離放射線健康診断)

@一般健康診断(労働安全衛生法で決められた法定健康診断)

 (a)既往歴・喫煙歴・服薬歴・業務歴の調査
 (b)自覚症状および他覚症状の有無の検査
 (c)身長、体重、腹囲、視力、および聴力の検査(1000Hz・30dB)(4000Hz・30dB)
 (d)胸部X線検査
 (e)血圧の測定
 (f)尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
 (g)貧血検査(赤血球数、血色素量)
 (h)肝機能検査(GOT、GPT、γ‐GTP)
 (i)血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、中性脂肪)
 (j)血糖検査(空腹時血糖またはヘモグロビンA1c)
 (k)心電図検査

A電離放射線健康診断(電離放射線障害防止規則に規定された特殊健康診断)

 (a)問診:被ばく歴の有無(有の者に対しては作業の場所、内容、期間、放射線障害の
    有無、自覚症状の有無その他)の調査
 (b)末梢血液中の白血球数及び白血球百分率
 (c)末梢血液中の赤血球数及び血色素量またはへマトクリット値
 (d)白内障に関する眼の検査
 (e)皮膚の検査

(3)健康診断の方法

健康診断個人票(労働安全衛生規則樣式第5号(1)(雇入時)および電離放射線健康診断個人票(電離放射線障害防止規則樣式第1号)を医療機関に持参して健康診断を受ける。健康診断の結果は各健康診断個人票に記入してもらって福島原発行動隊健康管理部に届ける。

(4)隊員の健康管理

福島原発行動隊健康管理部の医師は各健康診断個人票の結果に基づいて行動隊員の健康管理を行う。

(5)健康診断個人票の保管

各健康診断個人票は福島原発行動隊健康管理部で保管する。

2.疾病対策

(1)既存疾患の管理

健康診断の結果および個人の病歴に基づき既存疾患の管理を行う。個人のかかりつけ医療機関を利用する。

(死の四重奏http://fumon.jp/jimon/0308.htmおよび五重奏http://fumon.jp/jimon/0310.htm参照)

(2)放射線障害対策

a.急性放射線障害対策

@放射線被曝

放射線の被曝を防ぐには距離と遮蔽と時間について対策を行う。被曝量は放射線源からの距離の二乗に反比例する。離れていれば安全だが、原子炉事故処理の為には線源に近づく必要も生ずる。鉛入りの防護服・眼鏡・遮蔽物はある程度有効。被曝時間短縮も考慮する。

A放射能汚染

放射能汚染を防ぐには防護服・マスク・手袋・長靴等で身体を覆って作業し、作業が終了したら脱ぎ捨て、身体に残った放射能はシャワー等で洗い流す。N95(微粒子を95%除去)以上のマスクは有効と思われるが、装着すると息苦しいので長時間の作業は困難。

B急性放射線障害について

1シーベルト以上被曝しないと自覚症状は出現しない。短時間で二日酔いのような症状が現れたら危険。

C健康障害発生時の対応

 汚染の管理
 放射能測定
 汚染の除去
 応急処置
 病院への移送

D自己末梢血幹細胞採取保存

虎の門病院谷口医師の計画

原発作業員を守るため、希望される方に自分の末梢血幹細胞を早急に採取・保存しておける体制を整えました。希望者はいつでも虎の門病院で可能です。ご連絡ください。


日本学術会議の見解

日本学術会議は自家末梢血幹細胞移植が他者末梢血幹細胞移植に比し、適応のある急性被ばく犠牲者に迅速かつ安全に実施できる利点を有することは理解するが、福島原発緊急対応、復旧作業に現在従事している作業者に実施できるように事前に採血保存することは不要かつ不適切と判断する。(次ページに全文掲載)

福島原発行動隊健康管理部(田中雅博)の意見(福島原発行動隊院内集会 2011/6/30)

福島原発行動隊」に参加登録されている方が、高度放射能汚染現場での作業に従事する前に、自己末梢血幹細胞を採取して保存しておく選択肢についての説明文書を作成いたしました。

しかし、自己末梢血幹細胞採取は不要という意見もあります。

特に、日本学術会議東日本大震災対策委員会は

「@自己末梢血幹細胞採取は不要かつ不適切」
「A倫理的側面を含めた血液学会の統一見解を期待」

という判断を示しましたが、私は、この判断こそが不適切だと思います。

まず「@自己末梢血幹細胞採取は不要かつ不適切」に関してですが、この文章を書いた人達は、もし自分たちが、あるいは自分の子供が高度放射能汚染の現場で作業に従事することになったら、はたして自己末梢血幹細胞を保存せずに行かせるでしょうか? 誰が書いたか分かりませんが、少なくとも医療に従事していた医師が書いた文章ではないと信じたい、と思います。

次に「A倫理的側面を含めた血液学会の統一見解を期待」に関して、人類の長い歴史を経て尊い命を犠牲にして作り上げられてきた医療倫理の原則「インフォームド・コンセント」を理解して書いたとは思えません。インフォームド・コンセントは「情報を知らされた上での自己決定権の尊重」であり、全体主義的な統一見解に従うことではありません。私達福島原発行動隊の場合には、この説明文書によって、偏った意見に誘導しない公正な情報を提供した上で、各自の自己決定を尊重するという、民主主義の原則に従って進める方針です。

この説明文書は、自己末梢血幹細胞採取について次の6項に分けて説明しています。

  1.急性放射線障害について
  2.自己末梢血幹細胞採取保存の目的
  3.自己末梢血幹細胞採取保存の方法
  4.自己末梢血幹細胞採取保存によって期待される利益
  5.自己末梢血幹細胞採取保存に伴う不利益
  6.自己末梢血幹細胞を採取しなかった場合の治療

これを読んで不明な所、あるいは疑問点がありましたら自由に質問してください。私で答えられない特殊な問題については、その分野の専門家に問い合わせるように致します。

田中雅博

福島原発行動隊登録者
坂東観音第20番札所西明寺住職
医療法人普門院診療所内科医師
第1種放射線取扱主任者免状所有



      自己末梢血幹細胞採取保存に関する説明文書

この文書は、「福島原発行動隊」に参加登録されている方が、不測の大量放射線被曝をしてしまった場合に備えて、原発作業に従事する前に、あらかじめ自己末梢血幹細胞を採取し保存しておく方法の概略を説明する文書です。

これを読んでいただいて、自己末梢血幹細胞採取保存を希望される方は、福島原発行動隊健康管理部に御相談下さい。実際に末梢血幹細胞採取保存を行う時には、虎ノ門病院等の協力医療機関において専門医による説明を受けて頂き、そこで用意された同意書に署名して頂きます。また、10万円前後の実費を負担して頂くことになります。

1.急性放射線障害について

政府は福島原発で今回の地震の対応に限り作業員被曝線量上限を100 ミリシーベルトから250 ミリシーベルトに引き上げました。100 ミリシーベルト以上の被曝では癌の発生の増加や胎児への影響が出現します。500 ミリシーベルトを超えると一時的にリンパ球が減ります。さらに多く被曝した場合、1シーベルト(1000 ミリシーベルト)程度を超えると二日酔いのような自覚症状が現れ、白血球や血小板が減少し、皮膚の紅斑や脱毛が出現するようになります。白血球や血小板が減る骨髄造血機能障害は通常1 ヵ月位で回復してきますが、回復が困難で治療が奏功しない場合には感染症や出血で死亡することになります。この骨髄死が放射線障害による死亡の主因です。8シーベルト程度以上の全身被曝では回復困難な造血機能障害に加えて腸管粘膜壊死が起こり、下痢による脱水や消化管出血で死亡します。さらに15シーベルト程度以上では脳圧亢進による意識障害から脳死に至ります。

2.自己末梢血幹細胞採取保存の目的

被曝線量が上限の250 ミリシーベルトを超えない範囲で作業に従事する計画ですが、不測の事態でこの上限値を大きく超えてしまう可能性も考えられます。そして白血球や血小板が減少して回復してこない場合に備えて自己末梢血幹細胞を採取保存しておきます。脳障害や腸管障害よりも少ない被曝線量で回復不可能な白血球減少や血小板減少が起こり得ます。このような場合に自己末梢血幹細胞が保存されていれば救命が可能です。臍帯血バンク等を利用して他人の末梢血幹細胞を移植する方法もありますが、自己末梢血幹細胞の方が成功率が高くかつ安全です。

3.自己末梢血幹細胞採取保存の方法

まず骨髄から末梢血液の中に末梢血幹細胞を送り出すために、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を3日間くらい注射します。末梢血幹細胞が血液中に出始めたことを血液検査で確認し、血液成分連続分離装置を用いて血液中の幹細胞を含んでいる成分だけを集めます。通常は腕の血管2 ヶ所に管を入れ、一方から血液を採取し他方から成分分離後の血液を戻します。採取時間は約3〜4時間ですが、1泊2日程度の入院が必要です。

4.自己末梢血幹細胞採取保存によって期待される利益

放射線被曝による死亡の主因である骨髄機能障害の治療に役立ちます。万が一の大量被曝で造血機能障害が起きてしまい、他の方法で回復しない場合に、自己末梢血幹細胞が凍結保存されていれば、これをお湯で溶かして血管内に戻すこと(自家末梢血幹細胞移植)により造血機能を回復することができます。

自分の細胞なので拒絶反応が無く、他人の末梢血幹細胞を使用する場合のGVHD(移植片対宿主病)ような危険な反応も無く、これを抑制するための薬も必要ないので、その副作用もありません。

5.自己末梢血幹細胞採取保存に伴う不利益

自己末梢血幹細胞採取には3日程度の通院と 1泊2日程度の入院を要します。採取の副作用は高齢者や併存疾患のある人で多く、健康状態によっては採取ができない場合もあります。G-CSF注射による副作用として、骨痛(71%)、全身倦怠感(33%)、頭痛(28%)、不眠(14%)、食思不振(14%)、悪心・嘔吐(11%)などが報告されています。過剰な作用で脾臓が破裂したという報告もありますが、重篤な副作用は研究段階で起こったものであり健康保険認可後は見られておりません。末梢血幹細胞採取は、白血病などの患者さんに対して20年以上、健康なボランティアからも10年以上一般診療で行われている技術です。

末梢血幹細胞採取時には、太めの2本の静脈に針を刺し、3〜4時間横になっている必要があります。血液成分連続分離装置を通す血液を凝固させない為に用いる薬剤で、手足のシビレ等の不快感を伴うこともあります。

G-CSF注射は放射線感受性が高い若い造血器由来の細胞を増やすので、G-CSF注射後の放射線被曝によって白血病等の造血器由来腫瘍発生を増やす可能性が指摘されています。これは、可能性としては否定できませんが、実際に造血器由来腫瘍発生を増すという証拠が示された論文はありません。

6.自己末梢血幹細胞を採取しなかった場合の治療

被曝線量が上限の250 ミリシーベルトを大きく超えなければ、自己末梢血幹細胞を前もって採取保存しておく必要はありません。不幸にして大量被曝をしてしまった場合でも、臍帯血バンクなどを利用して他人の末梢血幹細胞を移植することができます。この場合には拒絶反応やGVHDの可能性があり、自分の末梢血幹細胞を用いる場合より成功率が低く、副作用もはるかに多くなります。 また適合するドナーが得られずに骨髄死に至る可能性もあります。

7.自己末梢血幹細胞採取保存に関する質問

自己末梢血幹細胞採取保存に関する説明で質問のある方は、下記項目欄に書いてください。

  1.急性放射線障害について
  2.自己末梢血幹細胞採取保存の目的
  3.自己末梢血幹細胞採取保存の方法
  4.自己末梢血幹細胞採取保存によって期待される利益
  5.自己末梢血幹細胞採取保存に伴う不利益
  6.自己末梢血幹細胞を採取しなかった場合の治療
 
  住所                             
  氏名               E-mail                  
    
文責:福島原発行動隊登録者 田中雅博(内科医師・第1種放射線取扱主任者免状所有)


b.晩発性放射線障害対策

@晩発性放射線障害について

 放射線被曝にともなう癌死リスク係数
 「しきい値なし直線モデル」(NLT モデル)
 広島・長崎被爆生存者の追跡調査に基づいている
  (広島・長崎データは高線量被曝に関する)
 米軍占領統治 原爆放射線による人体影響の研究
 1947 年に原爆傷害調査委員会(ABCC)
 国勢調査に基づき、広島・長崎の被爆生存者約12 万人を対象
 死亡状況を追跡する寿命調査(LSS: Life Span Study)を開始
 LSS の最新報告(第13 報:1950-1997)Radiation Research 160 381(2003)
  個人被曝量が推定されている被爆者86,572人
   1997 年末までに死亡したのは44,771人(51.7%)
    固形癌死9,335件 白血病死582 件 

A確率的影響

 1Sv の被曝にともなう癌死の過剰相対リスクは約0.5
 全死亡の20%を癌死とすると  (0.2×0.5=0.1)
 1 Sv の被曝によって将来癌死する確率は10%
 UNSCEAR(放射線影響国連科学委員会)はこの10%を採用 
 (ICRP (国際放射線防護委員会)は低線量効果低減で5%)
     
 将来癌死する確率は1 ミリシーベルト当たり0.01パーセント
 100ミリシーベルトで受動喫煙や野菜不足と同程度の発癌リスク

 2000ミリシーベルトで喫煙者と同程度 (国立がん研究センター)